窪田新之助・山口亮子共著、2023年5月刊 著者の窪田は、ジャーナリスト。日本農業新聞記者を経てフリー。著書に「農協の闇」(講談社現代新書)、「データ農業が日本を救う」(インターナショナル新書)などがあります。山口もジャーナリスト。愛媛県生まれ、京都大学文学部卒、北京大学修士課程(歴史学)修了、時事通信記者を経てフリー。窪田との共著に「誰が農業を殺すのか」(新潮新書)などがあり、企画編集やコンサルテングの(株)ウロ代表取締役です。
人口減少と高齢化が進む日本で、私たちの食を確保してゆくには、様々な課題が待ち受けています。農業現場の人手不足は深刻で、野菜産地などがこれまで頼ってきた外国人は、コロナ禍で一挙に消滅し、その後も回復していません。作業の機械化も、野菜や果物にはなかなか進みにくく、生産農家が減る一方です。しかし、危機が迫っているのは、生産工程よりもむしろ農産物を消費者に届ける流通過程の方が、はるかに深刻でした。
とくに2024年から物流業界の時間外労働が、年間960時間に規制され、トラックドライバーに、甚大な影響を与えることになりました。将来の人口、農家数、農地面積などの推計に加えて、流通業界、食品業界の変化が、最重要の課題となってきたのです。物流問題では、北海道、九州、沖縄などの遠隔地で表面化しています。福岡県特産のイチゴ「あまおう」は、収穫後3日目までに首都圏の市場に届けていましたが、それができません。
対応策として、農家から入荷後の在庫管理、配送、消費までの「コールドチェーン」の構築が必須となりました。段ボールを規格化してパレットでトレーラーに載せ、あるいはフレコンを活用するなどしながら、一貫した冷却システムで鮮度を保持するのです。集荷を待つ間の「予冷」も有効な技術で、農業関連施設の近代化が、強く求められています。
「四国的現象」という、離農が進む中で、大規模化経営が困難な地域特性で、耕作放棄地が増える状況もあり、とくに四国で顕著の現象でした。山に戻すことも一案でしょう。一方、徳島県には、広大な水田を預かり、高糖度トマト生産も行う農業法人がありました。水田105ha、ハウス2ha、一人当たり従来の3倍の農地で、好成績を上げています。東北や北陸でも水田規模拡大が進んでいます。1000haのメガファームも出てきました。
消費動向としては、単身所帯の急増で、加工・業務用が伸びています。農業が生み出す付加価値が増えているのです。国産農産品が持ち直し、農業の生産性向上を引き出しています。2015年時点で、国内での飲食料の最終消費額83,8兆円のうち、加工品が50,5%、外食が32,6%、つまり加工・業務用で83,1%を占めていました。単身化は農業の付加価値を高めるチャンスなのです。しかし、この急成長を活かす体制は、まだできていません。
一方、世界を見渡すと、世界人口は2022年に80憶人を超え、2030年には85憶人に達します。農業の活路は輸出にあります。急成長する海外市場に参入すれば、国内農業の成長はもとより、食糧安全保障の観点からも重要なのです。ところが政府の施策は、全くお粗末で、肝腎の「種苗」の海外流出まで黙認してきました。JA依存を脱して、AIとロボットの活用をはかりましょう。本書にはその先駆的取組みが多数紹介されていました。了
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